トップページ コラム/レビュー 東京レコード散歩 東京レコード散歩その① 銀座

東京レコード散歩その① 銀座

東京レコード散歩
その① 銀座

鈴木 啓之 (アーカイヴァー) 

左に移るリコーの看板のところに、かつては三菱電機のネオンが輝いていた

左に移るリコーの看板のところに、かつては三菱電機のネオンが輝いていた

歌謡曲の世界に欠かせないひとつのジャンルに“ご当地ソング”がある。そのルーツは、昭和41年に出されてヒットした美川憲一「柳ヶ瀬ブルース」といわれる。それ以前にももちろん地名が織り込まれた歌はあったが、美川をスターダムにのし上げ、それまであまり知られていなかった岐阜の歓楽街が一躍知れ渡ったこの曲をきっかけに、以降、全国各地の盛り場や港町などを舞台にした歌謡曲が俄然増えていった。ちなみに、ご当地ソングという括りは、クラウンレコードの宣伝マンの発案だったらしい。翌年、オリコンのランキングがスタートして初の1位を獲得した黒沢明とロス・プリモス「ラブユー東京」から、ムードコーラスのブームが一気に拡大したのも大きかった。鶴岡雅義と東京ロマンチカ「小樽のひとよ」や、内山田洋とクールファイブ「長崎は今日も雨だった」もまた然り。全国津々浦々、四季折々の土地の魅力が歌われたご当地ソングにも興味は尽きないが、ここでは自分が生まれ育った愛すべき東京にちなんだ歌の面影を追いながら散歩に出かけてみたい。題して“東京レコード散歩”。第1回はやはり世界にとどろく、東京一、いや日本一の街である銀座から始めなければ嘘になるだろう。

銀座へ出かける時は子供の頃から現在に至るまで、どこかちょっと居住まいを正すような気持にさせられる。東京の他の街にはない、緩やかな緊張感を伴うのだ。Tシャツ短パン、ましてやジャージ姿などでは決して足を踏み入れてはならない街である。中学生くらいまでは革靴を履かなければいけないところだと思っていた(ちょっと嘘)。その昔、数寄屋橋センターやソニービルに中古レコード店「ハンター」があった頃はもっとも銀座を訪れる頻度が高かった。今はそれほどでもないが、月に一度は行っていると思う。時間があれば山野楽器のCD売り場をのぞいた後、銀座コアのブックファーストで新刊チェックをする。ついでにトイレットを借りたりして。

この日も山野楽器で同行のT氏と待ち合わせ。キャンセル分で店頭に出ていたきゃりーぱみゅぱみゅの限定シングルをつい買ってしまった。いつまでたっても限定モノには弱い。しかし同店を訪れる度に、このまま昭和30~40年代にタイムスリップしたいと猛烈に思う。もし時間旅行が出来たら、他のどこにも行けなくてよいから、在庫のいっぱいある大きなレコード店で定価290円や330円のシングル盤を買い漁りたいとつくづく。その山野楽器を出ると、すぐ目の前は4丁目交差点。その一角を占める円筒型の三愛ビルは38年に開業して現在に至っている。今はリコーの看板だが、以前は複数階にショールームを擁した三菱電機のネオンが輝いていた。そのショールームの名を冠したタイアップソング「スカイリング・デイト」は梓みちよの極めて初期のシングルで、彼女のレコードでは最もレアな一枚だ。

「銀座の恋の物語の歌碑

昭和40年代のヒットソングでは和泉雅子と山内賢が歌ったベンチャーズ歌謡「二人の銀座」や、三田明の「数寄屋橋ブルース」などがあるが、30年代にヒットした銀座の歌といえば、なんといっても「銀座の恋の物語」(以後、「銀恋」と略)である。たしか歌碑があった筈と思い、岡本太郎のモニュメントが立つ数寄屋橋公園に行ってみたら、そこの石碑は“数寄屋橋此処にありき”という菊田一夫先生のもので、「銀恋」の歌碑は通りを渡って、西銀座デパートの横にあった。デュエットソングの定番としてカラオケ人気も高い「銀恋」は石原裕次郎と浅丘ルリ子の共演により日活で映画化されたが、もともとは『街から街へつむじ風』(36年)という作品の挿入歌としてスクリーンに登場している。こちらのヒロインは芦川いづみであった。歌での相手役・牧村旬子と写ったシングルのジャケットはオリジナル品番だけでも3種あり、再発盤やCDも含めたら10種類近くはあるのではないか。作曲した鏑木創によれば、昭和34年にフランク永井と松尾和子が歌った「東京ナイト・クラブ」をベースにして作られた由。そういえば曲調が似ている。

作曲家・吉田正らが牽引したビクターのムード歌謡も東京の歌の宝庫だ。フランク永井「西銀座駅前」は、♪ABC~XYZ で始まるイカした歌で、西銀座駅とは地下鉄丸ノ内線の銀座駅の以前の名称。銀座線の銀座駅と差別化されていたのが判る。歌詞に出てくる、メトロを降りて上る階段は、数寄屋橋交差点角の交番前の出入口に違いない。西銀座駅が開業したのは32年、レコードはその翌年に発売された。その後39年に日比谷線が開通した際に駅名が改称され、銀座総合駅となったのだった。フランク永井には、かつて駅前に存在したニッポン放送のサテライトスタジオの歌として出された「若い西銀座」などもあるが、有名なのはやはり「有楽町で逢いましょう」であろう。次回は少しだけ移動して有楽町を歩きます。

ジャケットの右に映るビルは現ソニービル。ここは当時をしのばせる

ジャケットの右に映るビルは現ソニービル。ここは当時をしのばせる

スカイリング・デイト/梓みちよ(昭和38年)ボッサ・ノバ娘として売り出された梓の2ndシングルは宮川泰作曲の明朗ポップス。“夢がいっぱい”“素敵なデイト”などのフレーズに高度経済成長時代の希望が反映されている

スカイリング・デイト/梓みちよ(昭和38年)
ボッサ・ノバ娘として売り出された梓の2ndシングルは宮川泰作曲の明朗ポップス。“夢がいっぱい”“素敵なデイト”などのフレーズに高度経済成長時代の希望が反映されている

二人の銀座/和泉雅子、山内 賢(昭和42年)ベンチャーズ歌謡第1弾。銀座の夜景をイメージして作られたメロディに永六輔が詞を施し、日活の若手俳優コンビが歌い映画化もされた。第2弾「東京ナイト」も名曲

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数寄屋橋ブルース/三田 明(昭和43年)大人への脱皮を図りつつあった元祖アイドルが歌うムード歌謡。スーツ姿でパリッと決めポーズをとる姿は紳士服店のモデルの様だ。バックに写るのは今も健在のソニービル

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銀座の恋の物語/石原裕次郎、牧村旬子(昭和36年)銀座の歌のナンバーワンはやっぱりこれ。同名の日活映画には当時の銀座の街並が活写されている。銀座のクラブのホステスさんとこの曲をデュエットするのは男子一生の夢

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銀座の歌のナンバーワンはやっぱりこれ。同名の日活映画には当時の銀座の街並が活写されている。銀座のクラブのホステスさんとこの曲をデュエットするのは男子一生の夢

西銀座駅前/フランク永井(昭和33年)吉田学校の看板役者が歌う、最高にイカした銀座ソング。佐伯孝夫のブッ飛んだ詞が傑作。フランク自身がストーリーテラー的に出演した日活映画は今村昌平の監督第2作だった

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吉田学校の看板役者が歌う、最高にイカした銀座ソング。佐伯孝夫のブッ飛んだ詞が傑作。フランク自身がストーリーテラー的に出演した日活映画は今村昌平の監督第2作だった

 

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東京レコード散歩 記事一覧

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プロフィール

鈴木 啓之

鈴木 啓之(すずき ひろゆき)

アーカイヴァー。昭和40年東京生まれ。テレビ番組制作会社に勤務の後、中古レコード店経営を経て、ライター及びプロデュース業へ。昭和の歌謡曲、テレビ、映画について雑誌などへの寄稿、CDやDVDの監修・解説を主に手がける。著書に『王様のレコード』(愛育社)、『昭和歌謡レコード大全』(白夜書房)など。現在、月刊てりとりぃ誌に「古書とスイーツの日々」を連載。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』にレギュラー出演中。

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