トップページ コラム/レビュー 東京レコード散歩 東京レコード散歩 その⑫ 御茶ノ水・神保町

東京レコード散歩 その⑫ 御茶ノ水・神保町

東京レコード散歩 その⑫ 御茶ノ水・神保町

文/鈴木 啓之 (アーカイヴァー) 

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聖橋の上から眺める御茶ノ水JR駅と丸ノ内線の交差する風景

かつては都電の要衝として知られた神田須田町の広い交差点から靖国通りを九段方面に向かうと、今回目指す神保町。しかしこの日は少し遠回りをして御茶ノ水経由で行くことにする。東京メトロ丸ノ内線の淡路町駅からすぐの「庄之助最中」でつぶあんのぎっしり詰まった最中を土産用に買ってから通りを渡り、老舗そば店「まつや」の横の道から裏通りへ入る。先年惜しくも火災で全焼してしまった「やぶそば」や、あんこう鍋の「いせ源」などがある通称グルメストリートの横を通って、JRの線路沿いの道を目指す。鳥鍋の「ぼたん」には長い行列が出来ていた。若い頃からそれらの料理屋さんは敷居が高い中で、「ぼたん」の向かいにある甘味処「竹むら」はたまに訪れてお汁粉をいただく機会も多い。

やぶそば

「やぶそば」旧店舗

やぶそばが再オープンしたのは昨年秋のニュースで知っていたが、新装後に現場へ足を運んだのは初めて。ここにはちょっとした想い出がある、昭和55年の秋、映画『帰ってきた若大将』のロケをしていた最中にたまたま通りかかって、まだ20歳そこそこの萬田久子に遭遇した。同じシーンに出ていた田中邦衛や樹木希林、さらには加山雄三もいた筈だが、その時は姿が見えなかった。小谷承靖監督はそれより10年前の監督デビュー作『俺の空だぜ!若大将』でもやはりここを若大将の実家のすき焼き屋「田能久」に見立てて撮影をしていたのである。ずっと後、若大将シリーズがDVD化された際の仕事で監督と一緒に同地を訪れた時は感無量であった。その時の模様はDVDの特典映像に収められているので、かの池波正太郎も常連だった旧・やぶそばの在りし日の姿をとくとご覧いただきたい。

DSCN0829DSCN0833さて、線路沿いの道を歩き、『あまちゃん』のロケ地でもあった昌平橋の横から坂を上って御茶ノ水に向かう。秋葉原との行き来で昔から通い慣れた道ながら、改めて道標を見て、淡路坂ということを今さら確認。この坂もまた実に走りたくなる坂だが、もうロートルなので全力ではなくゆっくりと上る。左側は新しい大きなビルが並び、ずいぶんと風景が変わった。坂を上り切ると、そこは聖橋である。さだまさし「檸檬」に出てくることでも知られよう。橋から見える湯島聖堂にも立ち寄ることにした。同行のT氏によれば、木村カエラのPVが撮られた場所とのこと。静かな霊廟に心が静まる。

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老舗の画材店「レモン」

御茶ノ水駅聖橋口の改札を通り過ぎて進むと、左側に丸善、右手には画材店「レモン」がある。ここに以前あったティールームが、ガロ「学生街の喫茶店」のモデルだという説があるが、作詞した山上路夫さんは特定のモデルはないと仰っておられる様で、どうやら後付けらしい。氏は76年にNAVレコードの新人・江口有子に「お茶の水あたり」という作品を書いていて、そちらはタイトル通り正真正銘の御茶ノ水の描写がある。メイン改札前のスクランブル交差点を左折して駿河台下方面へ。ここらは昔からディスクユニオンのお膝元。今もジャズ専門店の最大店舗「JazzTOKYO」をはじめ数々の店舗がひしめき合い、つい寄り道をしてしまいそうになる。

明治大学のキャンパスに差し掛かり、右に曲がると山の上ホテルが見えてくる。名だたる文士達がカンヅメとなり、作品をしたためたことで有名な名門ホテルの佇まいは常に格調高く、その周辺だけが閑静な空気に包まれている気がする。ホテルの裏手には幼稚園を擁する錦華公園、隣接するお茶ノ水小学校は元・錦華小学校といい、夏目漱石ら多くの著名人を輩出した学校なのだ。敷地内には漱石の石碑も。

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御茶ノ水の目印、名門ホテル「山の上ホテル」

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「ミュージック・ガーデン」があったビル跡

この辺りは住所でいうと猿楽町にあたる。その一角にあった古いビルで、私は以前小さな中古レコード屋を営んでいた。ビルのオーナーさんの名前に因んだスミビル。つのだじろうの「ブラック団」にでも出てきそうな昭和の隠れ家的な雰囲気が良くて借りることを決めたのだった。かなりのお歳のお婆ちゃまだったスミさんには契約の時に一度会ったきり。その後ビルは人手に渡り、ウチが出た後には中華料理店が入っていたが、つい先日、とうとう解体されてしまった。スミさんもとうに鬼籍に入られただろう。更地となった跡を通る時、ちょっと切ない想いがした。

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レコードの種類も豊富だった「人生劇場」

気をとり直して界隈を歩く。錦華通りの中古店「ターンテーブル」は昨年惜しまれつつ閉店し、今はシャッターが下りている。飲食店の並ぶ裏通りを抜けると、パチンコ店「人生劇場」の看板が見えた。ここは神保町の店だけあって、昔から景品に書籍類が充実していることで有名。レコードの種類も豊富だった。よく親にくっついて訪れ、レコードや本をとってもらったのが懐かしい。当時はパチンコの景品にレコードは欠かせなかった。人生劇場から靖国通りに出た角、現在石井スポーツとサイゼリアがある場所は、遙か昔は映画館だったという。その頃から既にあった「ランチョン」や「共栄堂」など、この辺りは老舗の飲食店が多い。昨今はカレーの街としても定着した神保町だが、その発祥は大正13年創業の共栄堂といわれている。ほかにも「エチオピア」に「ボンディ」に「マンダラ」……名店が目白押しである。カレーの話は長くなりそうなのでまた別の機会に。

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三省堂の裏通り「すずらん通り」

靖国通りを渡り、すずらん通りへ入る。その入り口のところ、つい先頃までカラオケのパセラがあったビルは、以前ヴィクトリアのレコード館だったことを思い出した。決して広くはない店内各階にレコードがぎっしり詰まっていた憶えがある。途中を左に折れたところにある「神保町シアター」は意欲的なプログラムで常にめが離せない新進の名画座。「東京堂書店」や「キッチン南海」などの老舗店を横目に見ながら白山通りを越え、さくら通りとなってすぐの左手にある中古店「ササキレコード」は今も健在だ。移転前、白山通り沿いにあった頃はよく通い、たまに掘り出し物に出会えることがあった。

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中古レコード屋「ササキレコード」

そして神保町の中古レコード店といえば、なんといっても「レコード社」である。昭和5年創業の業界最老舗。46年には姉妹店の「富士レコード社」もオープンし、井東冨二子社長が一貫して代表を務めている。店舗はいろいろと移り変わりがあったが、今は古書センター9Fと白山通りの本店に落ち着いた。かつては三省堂などで行なわれていたセールにもずいぶんと通ったが、あの殺気立った雰囲気は今では絶対に無理。若いからこそ参戦出来たのだとつくづく思う。

白山通りにはやはり老舗の「トニイレコード」がある。ジャズレコードコレクターの西島経雄氏が昭和44年に始めたという名店。一時期神保町交差点寄りにあったシングル盤専門の支店「トニイ45」は超狭い店ながら、時々凄くいい買い物をさせてもらった。あとはCDショップの「タクト」も忘れてはならない。こちらの店頭在庫は素晴らしい品揃えで、今も仕事関係でいざという時に頼りにしているお店。最近は音楽・芸能関連の古本にも力を入れていて、神保町へ行った際は必ず覗くようにしている。もう一軒、駿河台下のレンタルショップ「ジャニス」はテレビ番組の音効さん御用達の駆け込み寺だ。ここにも渋谷TSUTAYAにもないCDはもうあきらめるべき。古本にレコードにカレー、老舗の喫茶店も多い神保町はなんて居心地の良い街なのだろう。最後に庶民の味方「いもや」で天丼を食して本日の散歩を締め括った。次に来た時は「さぼうる」でナポリタンを食べよう。

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学生街の喫茶店の雰囲気を残す「さぼうる」。赤電話に注目

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わたし/谷口世津(昭和49年)
ホームドラマ『時間ですよ・昭和元年』劇中歌。阿久=筒美コンビによる佳曲をお手伝いさん役の谷口が歌う。舞台は前作までの五反田「松の湯」から、湯島の「亀の湯」に変わった。

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檸檬/さだまさし(昭和53年)
舞台は御茶ノ水。湯島天神と神田明神を繋ぐ聖橋からレモンを投げる描写が出てくる。梶井基次郎の小説「檸檬」にインスパイアされた由。ジャケットの絵はさだ自身によるもの。

trs12 学生街の喫茶店

学生街の喫茶店/ガロ(昭和47年)
当初はカップリングの「美しすぎて」がA面だったが、入れ替わってミリオンヒットを記録。個人的には御茶ノ水よりも神保町のイメージ。「ラドリオ」や「さぼうる」が思い浮かぶ。

trs12 お茶の水あたり

お茶の水あたり/江口有子(昭和51年)
西野バレエ団出身歌手のデビュー曲。フォーク色の濃いマイナー調のポップスを優れた歌唱力で歌う彼女はこの時まだ17歳。歌詞にはニコライ堂も登場する。作曲は都倉俊一。

trs12 古本屋のワルツ

古本屋のワルツ/黒船レディと銀星楽団(平成18年)
失くした本を探して想い出を訪ね歩く表題作「古本屋のワルツ」ほか、全9曲収録のミニアルバム。スウィング感溢れるジャジーでノスタルジックなムードに浸る。神保町推薦盤。

trs12 女学生探偵ロック

女学生探偵ロック/てにおは(平成25年)
1960年代の古書界を舞台にした小説「女学生探偵」シリーズがアルバム化された、いわば“聴く推理小説”。VOCALOID楽曲。「神保町遊歩」をはじめ16トラックで構成されている。

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プロフィール

鈴木 啓之

鈴木 啓之(すずき ひろゆき)

アーカイヴァー。昭和40年東京生まれ。テレビ番組制作会社に勤務の後、中古レコード店経営を経て、ライター及びプロデュース業へ。昭和の歌謡曲、テレビ、映画について雑誌などへの寄稿、CDやDVDの監修・解説を主に手がける。著書に『王様のレコード』(愛育社)、『昭和歌謡レコード大全』(白夜書房)など。現在、月刊てりとりぃ誌に「古書とスイーツの日々」を連載。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』にレギュラー出演中。

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