トップページ コラム/レビュー 東京レコード散歩 東京レコード散歩 その⑬ 中野

東京レコード散歩 その⑬ 中野

東京レコード散歩 その⑬ 中野

文/鈴木 啓之 (アーカイヴァー) 

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中野といえばブロードウェイ。白壁に“Broadway”のモダンな文字看掲

今回は自分が生まれ育った街を歩くので、無類の方向音痴も少しは安心である。しかもいつもの同行者T氏に加え、このところ何かとお世話になっているキレ者の女性プロデューサーH嬢も参加とのことで大層心強い。今や秋葉原と並ぶマニアの聖地となっている中野は、都心に近くて便利な割には家賃もそこそこだし物価も安い、暮らしやすいいい街だと思う。特に地下鉄丸ノ内線沿線はオススメだが、まずはやはりJR中野駅からスタートすることに。

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中野といえばサンプラザ

サンプラザがある側の北口は、ここ2~3年でかつての陸軍中野学校の跡地に複数の大学のキャンパス開校やオフィスの移転が相次ぎ、駅前広場も最近リニューアルされたばかり。風景が様変わりしている。今は改札口からそのまま直進して、中野ブロードウェイへ通じるサンモール商店街へ入っていけるようになった。アーケードを潜って少し行くと、昔は左手に店主の小父さんが独りで切り盛りしているレコード店があった。緩やかな上り坂をさらに進み、途中を左に曲がったところの角にある中古レコードの「RARE」はもうずいぶんな老舗だ。

昔、ここのセールで客同士のいざこざがあり、階段の途中の壁に穴を空けた男の話は語り種となった。マニアの狂気は時に凶器となる。コワイですね。RAREの目の前には、山下達郎をはじめ多くのアーティストに支持される都内屈指のコンサートホールを擁する中野サンプラザがそびえ立つ。先頃ついに解体・再整備が発表されてしまったのは実に残念。個人的にここで一番多く観たのは加山雄三だろう。昨今はハロプロ勢をはじめ、アイドルのコンサートが頻繁に行なわれるホールとしても知られる。

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サンモールからのブロードウェイ

再びサンモールに戻ってブロードウェイを目指す。その少し手前、やはり左側にいい感じに古ぼけた古本屋さんがあった。まるで映画のセットの様な薄暗く風格のある佇まいで、銭湯の番台の様に高くなっていた奥の帳場にはいつもいいご面相の女性店主が座っていた。とうの昔に無くなってしまったが、今でもその場所を通る度に思い出す。ブロードウェイに入り、3階への直通エスカレーターの手前にはわが愛する不二家が店を構える。中野が素晴らしいのは、南口にも不二家があること。ひとつの街に不二家が2件あるのは珍しいのでは? 3階直通のエスカレーターを降りると、昔からある新刊本の明屋書店は今も健在。そして「まんだらけ」の各店舗をはじめ、様々なコレクターズショップが軒を連ねる。「まんだらけ」はまだ1店舗しかない小さな店でオーナーの古川益三さん自らが店番をしていた頃から通っていたから、歴はかれこれ35年くらいになる。ここ数年の通いなれたルートは、まずは3階の「まんだらけ」本店をのぞいてから、さらに奥の中古CD店「レコミンツ」へ。中央付近の階段まで戻って4階へ行き、「まんだらけ」の各店、ヴィンテージ漫画の「マニア館」(自分はここがメイン)の後、締めは書籍専門の「海馬」といった具合。この日はブロードウェイ初参戦のH嬢もいたので、フィギュア系の「変や」にも寄る。ショーウィンドウには不二家ファン垂涎のたくさんのペコちゃんが並んでいた。再び3Fに下りて、しょこたん×BEAMSプロデュースの「mmts(マミタス)」へ。マミタスはしょこたんの愛猫の名前。店内のショーケースには、彼女が神と崇める松田聖子のサイン入りCDが飾られていた。猫好き女子には堪らないお店である。ほか、2Fには演歌系を主に扱う昭和43年創業のレコード店「中野名曲堂」もある。こうした街のレコード屋さんが健在なのは嬉しい。

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ショーウィンドウには不二家ファン垂涎のペコちゃんが並ぶ

CA3G0102プロードウェイを早稲田通りに抜けてから、路地を入って建物の東側に廻り込むと、白壁に“Broadway”のモダンな文字看板が掲げられた風景を見ることが出来る(一番上の写真)。かつてのメイン入口であっただろうか。マニアの聖地に変貌した今でも、ここにはまだ昭和の風景が残っていて、時折眺めに行くのだ。ちなみに昭和41年に完成したブロードウェイの開発業者は、原宿駅前の「コープオリンピア」を手がけたのと同じ開発業者の東京コープだったそうである。しかし、オリンピック後の不景気で完売までに時間を要したこともあり、その後は不動産事業から撤退してしまったらしい。屋上庭園やプールも擁した、当時最先端のデラックスマンションには、青島幸男や沢田研二も住んでいた。ジュリーに会うことはついぞなかったが、青島幸男はサンモールで何度か見かけたことがあった。ブロードウェイを後にして、サンモールと並行した駅に向かう飲み屋街を歩く。この辺りには戦後まもなくに開業し今も奇跡的に残るクラシック系のレコード店「文化堂」や、マニアアイテムを扱う「フラワーレコード」もある。駅に近づき、昔映画館があった場所は、現在スーパーマーケットが盛業中。

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家業だった喫茶店「ブラジル」跡

ここでH嬢が離脱し、いつものT氏との道中となる。駅の南口に抜けると、右手には一度閉店して復活したマルイ。丸井は中野が創業の地で、今も本社がある。元中野区民にとってマルイの再開は嬉しかった。中野通りを進んだ先の五差路には「中野ひかり座」という成人映画の専門館があっていつも看板が気になったが、入ることもないままに閉館になってしまった。その近くにあった中古レコード店「オールディーズ」は地元なのでよく通った店。しかし今はもうない。この散歩をしていて失われた店が多いのは本当に寂しいことだ。それから10分ほど歩いて丸ノ内線の新中野駅へ出る。青梅街道に面し、鍋屋横丁で知られるこの街こそ、自分が生まれた故郷。母方の祖父母の家もあった。その頃両親は久留美荘というアパートに住み、駅前で「ブラジル」という喫茶店を営んでいた。近くにあった映画館「中野オデヲン座」、洋菓子の「ミツバチ」、兄弟で経営されていた「江藤文具店」と「江藤書店」、カメラの「なるせ」……みな懐かしい。店を手伝ってくれていた叔母は、新中野駅に勤務する地下鉄職員の叔父と知り合って結婚したのだった。

浅田次郎の小説「地下鉄に乗って」の舞台となったのは新中野。そして氏も鍋横生まれだそうである。青梅街道沿いには「おかめや」という老舗レコード店があり、よく通った。鍋横の商店街通りにあったもうひとつの古い店舗は、おそらく最初の店とおぼしく、先代らしき年配のご夫婦がいらして、いつも親切にしていただいたのを憶えている。自分にとっての最も古い記憶のレコード店「おかめや」。当時は変わった店名と思っていたが、今思えば洒落ているではないか。実にカッコイイ。

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名曲「神田川」歌碑

青梅街道を新宿方面に向かい、途中、中野新橋通りの入口を過ぎる。中野新橋にも10年ほど住み、子供の頃の若貴兄弟が遊んでいるのをよく見かけた。あの頃は仲が良さそうだったのだが・・・。駅前の「いつわ書店」が五輪真弓の実家だと知ったのは、ずっと後のこと。いつも本を買っていたあの小母さまは五輪真弓のご母堂だったのか? 想い出は尽きない。中野坂上が近づいて見えてくるのが宝仙寺。私はここの付属の幼稚園と小学校に通い、寺には本家の墓もある。小学生の頃、参道付近で堀越の制服姿の石川さゆりとすれ違ったことがあるが、まだ可愛らしい女学生であった。山手通りと交差する中野坂上の駅前は、中野区で最も変貌を遂げた場所かもしれない。さらにしばらく歩き、本日の最終目的地、末広橋の小公園を目指す。少し迷った後に、東中野駅からほど近い「神田川」の歌碑に辿り着いた。初めて訪れたのに何故か懐かしい。すぐ横を流れる神田川沿いを外国人の女性が連なって歩いているのを眺めながら、昭和と平成が行き交うちょっと不思議な感覚に陥った。末広橋の上から新宿の高層ビル群を遠くに臨む風景は、夕暮れ時分ともあって郷愁に満ちていた。

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永遠のギターキッズ Live Vol.2/加山雄三(平成12年)
98年にノーキー・エドワーズとの夢の競演を見せた、サンプラザでのコンサート・ライヴ盤。インディーズレーベルから発売された。加山にとっては40年来のホームグラウンド。

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1116/THE ポッシボー(平成26年)
悲願のサンプラザでのライヴを実現させたポッシボー。開催日の11月16日をタイトルに掲げたアルバムの初回限定盤は“中野盤”としてリリースされた。これはジャケットの裏面。

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ホームスイートクリスマス/曽我町子 ほか(昭和40年)
不二家が提供していた「ポパイ」と「オバケのQ太郎」に、ペコちゃんも加わった豪華共演によるクリスマスの宣伝盤。クリスマスにショートケーキを食べる風習は不二家が広めた。

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ナベヨコ・ソウル/牧 伸二とブラックジャック(昭和52年)
中野に住んでいたこともあるという師匠。この歌は姉妹が鍋屋横丁で小料理屋を営んでいたことにちなんで作られた由。おでんやししゃもを咥えて、踊れ歌え!ファンキーナイト!!

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9lives/中川翔子(平成26年)
新中野に生まれ育ったしょこたんの一番新しいアルバム。愛猫マミタスとパチリ。彼女の深い中野愛は近著「中川ブロードウェイ」に詳しい。「綺麗ア・ラ・モード」は名曲です。

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神田川/南こうせつとかぐや姫(昭和48年)
70年代のフォークブームを象徴する一曲。歌碑は中野区の末広橋にあるが、実際には作詞した喜多條忠が住んでいたアパートのあった高田馬場の戸田平橋辺りが舞台ともいわれる。

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東京レコード散歩 記事一覧

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プロフィール

鈴木 啓之

鈴木 啓之(すずき ひろゆき)

アーカイヴァー。昭和40年東京生まれ。テレビ番組制作会社に勤務の後、中古レコード店経営を経て、ライター及びプロデュース業へ。昭和の歌謡曲、テレビ、映画について雑誌などへの寄稿、CDやDVDの監修・解説を主に手がける。著書に『王様のレコード』(愛育社)、『昭和歌謡レコード大全』(白夜書房)など。現在、月刊てりとりぃ誌に「古書とスイーツの日々」を連載。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』にレギュラー出演中。

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