トップページ コラム/レビュー 東京レコード散歩 東京レコード散歩 その⑳ 荻窪

東京レコード散歩 その⑳ 荻窪

東京レコード散歩 その⑳ 荻窪

文/鈴木 啓之 (アーカイヴァー) 

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昭和にタイムスリップしたかの様な気分になる荻窪駅周辺

中野~杉並で生まれ育った自分にとって、この街は馴染み深い街。その昔、父方の実家があった戸籍上の本籍地でもあるため、子供の頃から見てきたが、駅前の風景はさほど変わっていないように思う。特に北口を地上に出て右側の一帯、線路沿いに連なる商店街などは今もなお昭和の趣で、タイムスリップしたかの様な気分になる。青梅街道に面したバスターミナルにしても、昔と構造は変わっていないから、訪れる度に懐かしく想う。そもそも荻窪や阿佐ヶ谷など杉並界隈には関東大震災以降、下町から多くの作家たちが移り住んで文士村と呼ばれた文化の香り高き街。井伏鱒二の「荻窪風土記」などは殊に有名だろう。昭和37年の開業当時は“荻窪線”と呼ばれていたという地下鉄丸ノ内線の始点・終点の駅であることも、独特の雰囲気を築いている要因と思われる。

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古書店が充実している荻窪

雨が降ってきたので駅前のドン・キホーテでビニール傘を買ってから青梅街道を下る。以前は新星堂の本社があり、通りに面したショップも別にあったのだが、今は見当たらない。気になって後から同社のホームページを確認したら、荻窪の店舗は既に無く、本社もつくば市となっていた。数年前に資本が変わって変動があったらしい。すぐ並びにある杉並公会堂は10年近く前に建て替えられてすっかり綺麗になったが、ひたすらシブくモダンな感じの以前の建物にやはり馴染みがある。子供の頃に習っていたピアノの発表会があったことや、マニアが集結した「アマチュア連合特撮大会」の第2回が催されたのはよき想い出。実相寺昭雄の演出による41年の『ウルトラマン前夜祭』(翌週からスタートする『ウルトラマン』の宣伝番組だった)の中継会場であったことから、特撮ファンにとっての聖地でもある。真ん前の和菓子店「亀屋」の健在を確かめつつ、少し先の環八との交差点、四面道の手前にある「象のあし」にも立ち寄る。雑誌のバックナンバーが充実していて有り難い古本屋さん。かつては東横線沿いの中目黒や学芸大学、渋谷や高田馬場にもそれぞれユニークな名前の系列店があったが、現在はここと西荻窪の「ねこの手」などが盛業中。この辺りは同行のT氏にとっても懐かしい場所らしく、昔一緒にバンド活動していたというフィリピン人のドラマー、ジェフ氏がこの近くに住んでおり来たことがある由。なんだかカッコいい想い出話だ。

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風情のある佇まいの月光社

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荻窪といえばラーメンの街

駅の方まで戻り、有名なラーメン店「春木屋」の前を通る。看板に“昭和24年創業”とある老舗は、とあるテレビ番組で仕掛けられた荻窪ラーメン戦争によって一躍全国に知られた、東京ラーメンの代名詞的存在。デビュー前に荻窪で流しをしていたというこまどり姉妹も、この店でラーメンを食したことがあるだろうか。すぐ横の路地を入ると線路脇にこじんまりとした「月光社」がある。東京の中古レコード店の中でも一、二を争うんじゃないかと思える風情のある佇まいは、まるで映画『ALWAYS  三丁目の夕日』のセットの一部の様。平成27年の東京の街に奇跡的にその姿を留めている。荻窪銀座と呼ばれるこの一帯は、戦後の闇市に端を発する古い商店街で、月光社は場所を少し移しつつもその誕生当初から営業を続けている一軒だそう。久しぶりにのぞいてシングル盤を2枚購入した。先代のご主人の傍らにいつもいらした息子さん(?)が店を継がれた様子で、感じのいい接客が気持ち良い。この店の特徴はシングル盤のエサ箱が珍しくメーカー別に陳列されていること。昔日の街のレコード屋さんにはこういった棚が多かったと思い出される。勝手なことを言えば、改装などされることなく、ずっと今のまま続けていただきたいお店である。

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素晴らしい品揃えのささま書店

月光社の前の地下通路を潜って南口側へ渡る。荻窪は古書店も充実しており、NTTの並びにある「ささま書店」は素晴らしい品揃え。店内はもちろん、外の均一棚のクオリティが群を抜いている。行くたびに必ずといってよいほど買うものがあり、良心的な値付けも含めて個人的には都内で一、二を争う好きな古本屋さんだ。この日も芸能系のちょっと珍しい資料集を安価で買えて嬉しかった。他にも、南口を出た真ん前には岩森書店、その横の商店街を入ると左手に竹中書店という老舗がある。この仲通り商店街の途中、レコード店(いろいろ調べたが名前が判らなかった。ご存知の方がいらしたらご教示願いたい)があった角を左折して少し行った左側の地下一階に、伝説のライヴハウス「荻窪ロフト」があり、錚々たる面々がライヴを繰り広げていたそうである。昭和49年から5年間ほど存在したという同地では、ティン・パン・アレイやムーンライダース、RCサクセションらが出演し、51年のシュガーベイブのラスト・ライヴもここで行なわれた。つまりは細野晴臣も大瀧詠一も山下達郎も訪れていたわけで、当時生でライヴを体験出来た人生の先輩方を心底羨ましく思う。

私事だが、子供の頃から歯医者さんはずっと同じ荻窪の医院にお世話になっている。何年か前に移転して駅から近くなったその医院は西口からすぐのところにあり、そこへ行く度に想い出すのが、30年ほど前にその近くでピープロの鷺巣富雄さんに会ったことだ。ピー・プロダクションはかつて『マグマ大使』や『ハリスの旋風』、『電人ザボーガー』など、特撮やアニメ作品の制作会社として名を馳せていたが、80年代になるとほぼその役割を終え、世田谷の社屋をたたんで荻窪の小さな事務所に移転していた。その頃、懐かし系のテレビ番組で使う素材フィルムを借りに行った際、鷺巣氏が直接対応して下さり、長時間に亘って想い出話を伺うこととなった。東宝撮影所で円谷英二に師事した話から、漫画家・うしおそうじとしての時代、ピープロを創設した頃の話など。アポの際の電話の様子から察してはいたものの、まさか社長自らが応対されるとは思わなかったが、おそらくその頃はおひとりで事務所を切り盛りしておられたとおぼしい。同時期に『サザエさん』でおなじみのエイケンを訪ねた折には、実弟の鷺巣政安さんに会うことが出来たのも貴重な体験だったと思う。おふたりともどこの馬の骨ともわからない若僧に対して、優しく丁寧に接して下さったのが印象深い。杉並公会堂といい、考えてみたら、荻窪は特撮に何かと縁のある街なのであった。

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かつての面影はない新装された杉並公会堂

trs20+荻窪ブルース

荻窪ブルース/川路久美子(昭和48年)
“ブルース”と名の付く歌は多くの街に存在するが、荻窪は自主盤でクリア。サイン入りは手売りされた証明ともいえる。3番の歌詞にある“いつものスナック”がどこか気になる。

trs20+荻窪二丁目

荻窪二丁目/南こうせつ(昭和50年)
かぐや姫解散後のソロ・ファースト・アルバム『かえり道』所収。荻窪二丁目は実在する地名で、駅より南の高井戸寄りの区域。環八には同名のプレートが掲げられた交差点もある。

trs20+涙のラーメン

涙のラーメン/こまどり姉妹(昭和38年)
デビュー前に流しをしていたという荻窪には、師・遠藤実のレッスン場もあり、二人にとって想い出の地。仕事の後のラーメンがなによりの楽しみだったという。荻窪はラーメンの街。

trs20+ラーメン節

ラーメン節/白根一男(昭和39年)
ラーメンソングをもう一枚。この頃、ラーメンを題材にした歌謡曲がわりと多いのは、国民食となった証しであろうか。カップリングの映画挿入歌「番外地小唄」は放送禁止歌だった。

trs20+DOWN+TOWN

DOWN TOWN/シュガーベイブ(昭和50年)
山下達郎を中心に48年に結成され、51年に解散した彼らが、活動中に出した唯一のシングル。伊藤銀次の詞には、「ラブユー東京」をヒントにしたというワードが盛り込まれている。

trs20+冒険ロックバット

冒険ロックバット/水木一郎、コロムビアゆりかご会(昭和50年)
ピープロ自社制作の最後となった作品。キャラクターデザインをうしおそうじこと鷺巣富雄が手がけ、主人公のロックバットの顔は鷺巣自身がモデルらしい。そういえば似ている。

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プロフィール

鈴木 啓之

鈴木 啓之(すずき ひろゆき)

アーカイヴァー。昭和40年東京生まれ。テレビ番組制作会社に勤務の後、中古レコード店経営を経て、ライター及びプロデュース業へ。昭和の歌謡曲、テレビ、映画について雑誌などへの寄稿、CDやDVDの監修・解説を主に手がける。著書に『王様のレコード』(愛育社)、『昭和歌謡レコード大全』(白夜書房)など。現在、月刊てりとりぃ誌に「古書とスイーツの日々」を連載。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』にレギュラー出演中。

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