トップページ コラム/レビュー 東京レコード散歩 東京レコード散歩 その㉓ 渋谷(後篇)

東京レコード散歩 その㉓ 渋谷(後篇)

東京レコード散歩 その㉓ 渋谷(後篇)

文/鈴木啓之 (アーカイヴァー) 

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渋谷の街の移り変わりを見てきたハチ公

渋谷の象徴ともいえるハチ公像の前はいつ行っても人で溢れている。ハチ公の場所は同じ広場内で何度か移転しているそうだが、現在の位置はベストと言って良いのでは。そのすぐ横に東横線の旧車輌が置かれてからもう10年近くは経つだろうか。現役時代、クレージーキャッツの映画にも登場したことがある緑色の車体は、今は案内所兼休憩所となって駅前の風景に溶け込んでいる。旧字体の”澁谷”のプレート文字がなんとも勇ましい。再び駅前広場を起点に散歩を続行。今度は道玄坂方面へ進む。

坂を上り始めてすぐ、109の向かいにあるパチンコ店の横に小さな小さなレコード店があったのは、遠い昔のこと。買い物をしたことはついぞなく店の名も知らないままだったが、いつも前を通ってところ狭しとレコードが並べられている様子を眺めていた。そのすぐ先にはTOHOシネマズ。自分が学生時代、渋谷で東宝の映画を観る際には今のQFRONTの場所にあった渋谷宝塚だったが、もともと東宝邦画作品の封切はこちらにあった渋谷東宝で、昭和24年に『青い山脈』が大ヒットした時には長蛇の列が出来たという。通りを挟んで向かいに位置するプライムは、かつてはクレジットの緑屋であった。丸井と並ぶ月賦ショッピングの先駆け。その隣のビルの地下に今もある「珈琲トップ」は27年の創業という老舗の喫茶店である。駅前には1号店が、さらに新宿にも支店がある。東宝で作られた映画版『若い季節』(昭和37年)で青島幸男が喫茶店のマスターに扮するのだが、そのセットにこの店のロゴが使われており、極めて早い時期のタイアップであった。

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109を目指して道玄坂を歩く。その横のプライムはかつては緑屋だった

道玄坂の中間辺り、看板建築の古い建物が並ぶ一角にあった古本店「文紀堂書店」はよく覗き、大衆小説などを買った。開業が戦前だそうで、昭和30~40年代の風情が残るいい雰囲気の店であった。その後は池ノ上に移転し、現在は代替わりして調布の仙川で営業されているらしい。その先にあるヤマハの楽器ショップは、以前はレコードも扱っており、幼少の頃、ここにキャンペーンに来ていたであろう坂本九に握手してもらったことがある。向かいにあった「サカモト」という理髪店が親の代から行きつけの店で、その日も親に連れられて訪れていた折、「すぐそこに九ちゃんが来てるよ」と言われて会いにいったのだった。おそらく幼稚園か小学校低学年の頃。それが、芸能人との生まれて初めての握手と思われる。ちなみにサカモトの符合は単なる偶然である。その時代はまだこの辺りに力道山が開いた「リキ・スポーツパレス」が存在していた筈だ。坂の上で通りを渡り、少し戻って百軒店の路地を入る。すぐ右にある「道頓堀劇場」は、コント赤信号やゆーとぴあが修行を積んだというストリップ劇場。なぜ渋谷なのに”道頓堀”かというと、本来は”道玄坂劇場”であったのだが、手違いで誤った看板が出来てきてしまい、面倒なのでそのまま劇場の名にしてしまったという漫画みたいなエピソードがある。あまりに出来すぎた話なので後付けかもしれない。

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「B.Y.G」の隣に名曲喫茶「ライオン」

かなり急な坂を登ると道が狭くなって三筋に分かれる。この一帯、昔は渋谷における娯楽の中心地として大きな映画館もあったらしい。今はラブホテルや風俗店が密集したゾーンで普段はちょっと行きづらいが、飲食店の数も多く、昔ながらの名店もある。ひとつは昭和44年にオープンし、はっぴいえんどやはちみつぱいがライブ出演していたという伝説のロック喫茶「B.Y.G」。その隣に昭和元年創業の名曲喫茶「ライオン」が共に健在である。二店が並ぶ小路を抜けると、途中千代田稲荷神社の横を通り、多くのライブハウスが集まるエリア。円山町のラブホ群との共存が興味深い。かつての花街歩きは突如古い建物が出現したりしていろいろな発見があるが、その辺りは昔から愛読している本橋信宏さんの範疇になる。最近上梓された『迷宮の花街 渋谷円山町』は無類に面白いルポルタージュだった。同書にも書かれている通り、歌手の三善英史はこの町の出身である。本当はシングル発売する予定ではなかったという「円山・花町・母の町」は結局3枚目のシングルとしてリリースされ、デビュー曲「雨」に次ぐヒットとなった。自らの生い立ちが歌い込まれたリアルな詞が訴えかけてくる。自然と口ずさみながら裏路地をしばらく歩いていると、井の頭線の神泉駅が近づいてきた。映画やテレビドラマのロケ地を探すが如く、事件現場跡を訪ねることに目が無い身としては、我ながら悪趣味だと思いつつも、東電OL殺人事件があった場所へ行かずにいられなかった。駅前の踏切を越えてすぐ、「M」という一杯飲み屋が一階に入っているアパートがまだあることを確認してから、渋谷駅方面へと戻る。

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映画「太陽を盗んだ男」にも出てきた東急百貨店本店

DSCN2658少し歩いたところで辺りの雰囲気が一変して、松涛の住宅街へ出た。Bunkamuraはもう目の前。ここには幾度も訪れているオーチャードホールがある。今までに一番多く観ているのは加山雄三、最近では薬師丸ひろ子のコンサートから東急本店を抜けてドン・キホーテ前の交差点に出る。渋谷に二つある東急百貨店だが、昭和42年に開店した本店の方が歴史は浅い。前身が東横百貨店だった駅前の東横店は、平成25年に閉鎖された東館のオープンが昭和9年だというから、今の大工事も致し方ない。小学校の跡地に建った本店では、40年くらい前に本売り場で、ムロタニ・ツネ象の「ナゼナゼ君」という学習まんがを親に買って貰ったことを、なぜか鮮明に憶えている。明るいタッチのまんがだったし、ほかにも「ファイトだ!!ピュー太」や「わんぱくター坊」といったギャグ作品が多かったので、その後、ホラー漫画の「地獄くん」が同じ作者の作品と知った時はショックだった。そんなわけで、今でも東急本店の前を通るとムロタニ・ツネ象の名が反射的に思い浮かぶ。だいぶ駅に近づき、富士そばの角を左に折れてすぐ、地下に小さなレコード店がある。「JARO 」というジャズの専門店は、昭和48年から営業しているそうだが、存在は知りつつも入ったことがなかった。階段を降りて行くと、決して広くない空間にレコードがぎっしり詰まって、レコードのいい匂いが充満している。奥にいかにもジャズが好きそうなご主人が座っていた。何か買いたかったが見つからず、恐縮しながら店を出る。今は線路沿いに軒を列ねる「のんべい横丁」は、もともとこの界隈に並んでいた屋台が集まって移転したというから、渋谷で流しをやっていた北島三郎は、昔この辺りをギター抱えて歩いていたに違いない。引退前にはぜひ渋谷に帰ってきて凱旋流しをしてもらいたいものだ。

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ただいま、東急プラザだった建物が解体中

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ドラマ「俺たちの祭」ロケ地あたり

109前のスクランブル交差点を渡り、路地を入って井の頭線エリアへ。この辺もマークシティが完成して久しく、昔とはずいぶん風景が変わっている。昭和40年頃の渋谷の街並が写っている写真集を見ていて、他の場所はだいたい判ったけれども、10円寿司屋(今でいう100円寿司だろう)の看板が目立つ井の頭線の駅前風景はすぐには判別出来なかったほど。学生時代は近所の裏道にあった安いステーキ専門店でよくひとりランチをした。食後に日本一薄いんじゃないかというサービスのコーヒーがついてきて、いつもそれを黙々と飲み干してから店を後にしていたことを想い出す。しかし今思えばあのチープ感が学生の身にはちょうどよかったのだと思う。近所に来ると必ず立ち寄る「渋谷古書センター」は今日も健在。植草甚一気分で外の均一棚で雑本を漁る。すぐ目の前にあった東急プラザの建物がついに解体されて初めて見る光景が広がっている。ここでは広い「三省堂書店」と、CDショップの「コタニ 」によく訪れた。結局は物心ついてからの何十年、常に書店とレコード店のあるところに通い続けてきたのである。2年後に出来るという新しいビルに両施設が入ることを望む。

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ミュージックバー「45」店長高橋さん

246を渡って桜ヶ丘地区へ移動。以前、ミニシアターのユーロスペースがあった通りの坂を登りきったところにあったアパートは、東宝のクレージーキャッツ映画『大冒険』(昭和40年)などのロケ地で、まだ建物が残っていた頃に写真を撮りにきたことがある。最後は留学生専用のアパートになっていたようだ。さらに246から歩道橋を渡ってすぐ、現在のエクセルシオールカフェの場所にあった「マックスロード」は、ドラマ『東京ラブストーリー』でカンチとリカが待ち合わせをしたカフェだった。今日もその辺りを歩こうとしていたら、歩道橋下にある「あおい書店」の前で、近くで最近バーを開いた知人にバッタリ会う。まだオープン前の時間であったが、ちょっとお邪魔させていただくことにした。メイン通りの坂の途中、『大冒険』ではハナ肇がタバコ屋で買い物する辺りの先の道を左に折れてすぐ、右側にあるビルの2階にミュージックバー「45」はある。ターンテーブルの45回転にちなんだ店名の通り音楽に拘った店には、マスターの前職もあってか音楽関係者が多く集まる。自分もいつかはバーを開きたいと思っていろんな店を見ているが、世辞抜きで実に雰囲気のいいお店。肝心なバックバーの様子も素晴らしい。ここでは仲間うちで月に一度、レコードをかけさせて貰っているので宣伝するわけではないが、ご興味がある向きはぜひ一度同店を訪ねて、マスターの温かい人柄に触れていただきたい。というわけで今回の散歩はここでフィニッシュ。いつにも増してよく歩いた。新たな東京オリンピックに向けて、都内で最も変貌著しい街・渋谷は、今後どんな顔を見せてくれるのだろうか。

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クレージーキャッツ映画『大冒険』に出てくる桜ヶ丘の坂

 

trs23+下谷としぶや

下谷としぶや/マイク真木(昭和41年)
日比谷の街角ですれ違った彼女は下谷に住んでいる。ぼくのうちは渋谷。地下鉄に乗れば会いに行ける・・・という話。つまりは銀座線のうた? ハマクラ作品らしいペーソスが漂う。

trs23+渋谷ブルース

渋谷ブルース/バーブ佐竹(昭和43年)
キングからミノルフォンへ移籍した後のバーブが歌う、遠藤実作曲の切ないブルース。道玄坂にはじまり、宇田川町、恋文横丁、ハチ公広場と、渋谷の名所が歌詞に織り込まれている。

trs23+ノーチェ・デ・渋谷

ノーチェ・デ・渋谷/ヴィレッジ・シンガーズ(昭和45年)
阿久悠=中村泰士コンビによるヴィレッジの後期盤。後ろの大きな建物は渋谷宝塚が入っていたビルで、現在のQFRONT。よく見ると「男と女のお話」ののぼりが見える。

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円山・花町・母の町/三善英史(昭和48年)
渋谷区出身の三善英史はスカウトをきっかけに歌手となり、「雨」でいきなりデビューヒットを飾る。3枚目の本作は自らの出生が題材にされた作品。紅白初出場の折にも歌われた。

trs23+雨ふり道玄坂

雨の道玄坂/ふきのとう(昭和51年)
ポプコン出身、「白い冬」でデビューした彼らの6枚目のシングル。失恋した女性の心境が描かれる。北海道出身なのに沖縄で特に人気が高かったという不思議なフォーク・デュオ。

trs23+渋谷・愛の街

渋谷・愛の街/ペギー葉山(昭和53年)
30年くらい前、渋谷区役所で貰ったレコード。歌詞にも出てくるハチ公をジャケットに登場させて欲しかった。都倉俊一の曲とはさすがオシャレ。3番で半音転調するのがカギ。

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東京レコード散歩 記事一覧

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プロフィール

鈴木 啓之

鈴木 啓之(すずき ひろゆき)

アーカイヴァー。昭和40年東京生まれ。テレビ番組制作会社に勤務の後、中古レコード店経営を経て、ライター及びプロデュース業へ。昭和の歌謡曲、テレビ、映画について雑誌などへの寄稿、CDやDVDの監修・解説を主に手がける。著書に『王様のレコード』(愛育社)、『昭和歌謡レコード大全』(白夜書房)など。現在、月刊てりとりぃ誌に「古書とスイーツの日々」を連載。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』にレギュラー出演中。

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