トップページ コラム/レビュー チェリーの歌謡曲ワンダーランド 何がサッコに起こったか?『リトル プリンス』 伊藤咲子シリーズ・顔で笑って心で泣いて~その2

何がサッコに起こったか?『リトル プリンス』 伊藤咲子シリーズ・顔で笑って心で泣いて~その2

何がサッコに起こったか?
『リトル プリンス』 伊藤咲子
シリーズ・顔で笑って心で泣いて~その2

文・資料/チェリー 

sakikotop

「ちょっとちょっと、伊藤咲子がテレビに出てるわよ」
こんな声で起こされたのは忘れもしない…今から35年前の春まだ浅い頃。当時の筆者は、くちばしの黄色い中学生。前の晩に夜更かしの悪あがき? 完全におネムな夢ン中だったのである。時計の針はすでに朝の7時を回っており、さっさと起きて学校へ行く支度を整えなければならない時間になっていた。寝過ごす前に起こしてもらえたのは幸いだったが、その起こされ方とやらが…まぁ、なんである。このような家庭に育つと、筆者のような歌謡曲マニアがいっちょ上がり! と相成るのか。笑)

なにはともあれ、冒頭に登場した伊藤咲子嬢について少々の補足を。

彼女は1973年、15歳の時にNTV『スター誕生!』で優勝を飾り、翌年4月に『ひまわり娘』で颯爽とデビュー。周囲からは大きく期待され、外国人作曲家&ロンドンレコーディングという、新人としては破格の扱いを受けた。その後も『乙女のワルツ』『木枯らしの二人』などが好セールスを記録し、人気アイドルとして君臨。続く76年には『きみ可愛いね』がベストテンヒットと相成り、NHK『紅白歌合戦』に出場するという、華々しい経歴を築いた方でもある。
だからこそ、筆者にとっての伊藤咲子という歌手は、かなりの有名どころという認識になっていた。このような輝かしいキャリアを持つ彼女が、なぜゆえに? しかも朝の7時を回ったばかりのテレビ番組に顔を出しているとは!これは、半信半疑にならざるを得ない、寝耳に水のような話。だからこそ、眠気まなこを一気に覚ます特効薬にもなったわけなのだが。笑)

あの頃のテレビの風潮として、『紅白』に出場したほど名の知れた歌手が、朝も早よからの番組で歌を披露することは稀だった。そのような時間帯で見かけたのは、デビューしたばかりの新人歌手、とことん売れないアイドル歌手、そして『あんたダアレ』系の演歌歌手あたり。しかも、放送局がテレビ東京ときたら、もうお決まりの…といった風だったもの。だからこそ、歌謡曲マニアにとっては視聴するのがたまらなく楽しい局でもあったワケなのだが。
テレビ東京は今でこそ、真摯な姿勢で製作する番組が好評で、数多くの人気番組を抱える局へと成長している。しかし、80年代初頭の候と言えば、まだまだ東京のローカル局といった匂いをプンプン放っていたもの。その局が月-金の毎日、朝っぱらから生放送していた番組(←当時のアイドル歌謡にお詳しい方なら、番組名はお察しいただけると思うが)に、伊藤咲子という、『紅白』出場経験のある大物歌手が出ている。これが、当時の筆者としては、しこたま解せないものに感じたのである。しかも特別出演とか、そういう待遇ではなく、上述した類の歌手たちと、ひとからげにされての出演という…ハニャ。

そして、その番組内で披露したのが『リトル プリンス』いう曲。本曲は数えてシングル第17枚目、発売日は1982年2月21日。
作詞:大津あきら 作曲:棚部陽一 編曲:船山基紀

1982年のこの頃と言えば、いわゆる”花の82年組”の面々がデビューを目前に控えていた時期である。これ以降の呼び名に関しては、親しみをこめサッコと呼ばせていただくことにする。

さて、この頃のサッコを文字で例えてみると
『青い鳥逃げても』
いや、青い鳥が逃げちゃった…と書くべきなのか。

彼女の活動が順風満帆と言えたのは、1976年の前半頃まで。以降は翳りが見えはじめ、テレビで見かける回数はすこぶる少なくなっていった。ピンク・レディーという、超絶センセーショナルなデュオが登場して以来、ニッポン歌謡界の雰囲気は一変。以前は良しとされていたスタイルが、急に古めかしいものとして扱われてきた時期だった。
サッコはその潮流に負けじと、楽曲を発表し続けるも、芳しい結果が出ず撃沈に次ぐ撃沈!彼女の肩にとまっていた”青い鳥”はどこさ行った? とばかりの失速モードへ陥ってしまったのである。そんな状況下の彼女が出した答え…それが休業だった。最初の決断は1979年。以後、80年度に一度は復帰したものの、どこかおぼつかない状態のまま、その灯火は消えてしまう。そして、歌謡シーンにふたたび戻ってきたのが、『リトル プリンス』発売の頃。しかし、この時…暦はすでに1982年を示していた。

蛇足になるが、この失速時期にはイルカに乗った”あの方”との色々もあったらしい。その彼が芸能界からの引退を決意、その際には故郷で一緒に暮らさないかという打診もあったそう。しかし、歌に未練がアリアリだったサッコは踏みとどまった。二人のロマンスは、どうもこの時点で幕切れとなった模様。この時期のサッコが、精神的に不安定に陥ったのも…ふむふむと頷けるというものヨ。そもそも、当時の現役アイドルが交際宣言というのは、異例中の異例。アイドルは清く正しく美しく…これが当時の鉄則だったからである。

『リトル プリンス』|テーマ

悲しい愛の出来事にうちひしがれる女性。そんな彼女の前に、ひとりの男が現れた。どこか気まぐれで無邪気な彼は…なぜだか私を夢中にさせてゆく。愛らしい”リトル プリンス”のように、私の心まで奪ってゆくの。あの時、あなたからわたしを愛して、悲しい出来事からさらってくれた。そうよ、わたしはお馬鹿さん…でも、もう戻れない。愛の中へ、夢の中へ…あなたに甘くとけて…とけてロマン。

『リトル プリンス』|聴きどころ

1:クラシックを思わせる、格調高い美しいメロディーライン
2:サッコの歌唱力を前面に打ち出す、壮大なバラード調
3:サビが唄い出しという、いわゆる売れ線の造り
4:ダイナミック・ボーカリストとはサッコのこと!これを聴き手に納得させる歌声

二度目となる復帰を飾るに相応しい、スケールの大きな楽曲である。サッコ本来の持ち味である伸びやかな歌声、そして、ホールの隅々にまで轟くような声量を十二分に活かせるダイナミックさが特長になっている。有線放送局やレコード店回り等も、以前とは比較にならないほど積極的にこなしたという媒体記述も残されており、彼女も相当に気合を入れていた様子が見て取れるのである。
そして、本曲は洋画とのタイアップまで付いた。サッコの再復帰に更なる彩りを添えるかのように。
その洋画とは、同年3月に封切られた英国映画『リトル プリンス』。かの有名な児童文学『小公子』を基にした物語で、当時の人気子役、リッキー・シュローダーが主演し世界公開された作品である。かといって、サッコの曲が世界各国津々浦々にある映画館でガンガン流された…というワケではない。あくまでも”日本公開用の”という、限定の付いたタイアップである。
映画は日本国内でもそこそこ話題となり、おもにテレビ東京系の番組内にて宣伝されていた。局が協賛かなにかで関わっていたのだろうか。映画宣伝用のテレビCMを目にする機会も多かったが、こちらではサッコ歌唱のものが使われていたと記憶する。但し、国内公開用の映画本編、ならびに劇場内でも同様に使われていたのかどうかは失念…めんぼくない。35年も前の話となるため、どうかご容赦をお願いしたく。
シングルレコードの歌詞掲載面を確認してみると”イメージ・テーマ・ソング”なる記述が見受けられる。しかし、そういう風に書かれていながら、本編では一切合切流されず…という例もあったことは付け加えておくことにする。苦笑)
タイアップとなった本楽曲では”無邪気”や”あどけない”という言葉を巧みに使い、そのような男性に心奪われてゆくロマンスを描くことに成功している。まさか映画よろしく、小公子のような幼い少年との恋愛を歌詞にするわけにはいかないもの。『リトル プリンス』という括りの中で成し遂げた、素晴らしきお仕事と言える。

sakiko1

映画『小公子』をイメージしたがイラストが描かれたレコードジャケット。おもてにもうらにも伊藤咲子の顔写真は掲載されていない。

sakiko2映画『リトル プリンス』、当時のチラシやパンフレット。映画館によっては「おはよう!スパンク」と同時上映された模様。

再起を賭けた復帰、並々ならぬ気合、売れ線の楽曲、洋画とタイアップ…負け戦など考え難いような、勝算アリアリの中で市場に出回った『リトル プリンス』。サッコの再復帰を支えたスタッフ陣も期待に胸ふくらませ、チャート動向を手ぐすね引いて待ちわびたのではないだろうか。しかし、フタを開けてみると
最高101位

あわわワワ?『何が私に起こったか』もとい、何がサッコに起こったか?
この順位は、1-200位の中においても、最もやるせなさを漂わす位置ではないか…ガーン!この曲が101位のところでずんどまりだなんて…。この順位は、あと1つランク上げていたらねぇ…という、たられば極まる水面直下。しかも、浮上寸前のところで砲撃を喰らい撃沈~というありえなさ、トホホ。
当時のヒットチャートは、100位以内に入った楽曲にのみに対して売上枚数を集計、公式記録として扱った。しかし、101位以下の場合はその線引きに則り、はじきとばして蚊帳の外。たかが1ランク、されど1ランク! 越えきれぬ壁に阻まれた”101番目のユ・ウ・ウ・ツ”だったのである。

チャートには、101位以外にもなりたくない順位は存在した。たとえば
11位、21位、31位、51位

どれも立ちはだかる壁の前で玉砕!悔しさが滲む順位群だが、とりわけ位置の低い51位にはどのような理由が?この順位には、上位50位を逃したという事実のみならず、誌面の都合上による切なさもアリマシテ。要は、1-50位、51位-100位のそれぞれを、左右に分けて掲載していた時代に存在した闇。要は、左掲載をあと一歩のところで逃してしまった順位という。某市販チャート誌の、当時の掲載方法をご存知の方なら合点していただけるはず。
それら順位の中で、闇がもっとも深いと思われる101位で止まってしまった「リトルプリンス」。この曲はそこを頂点とし、徐々にチャートを下降。次週こそは100位の壁を越えてくれ!という、筆者の願いも虚しく。

sakiko3第一家庭電器のメンバーズクラブ、DAM(第一家庭電器 オーディオ メンバーズの略)が、自ら企画し、会員特典用のオーディオチェックレコードとして制作していた盤。いわゆる自主制作と呼ばれるもので、一般市場での販売は成されなかった完全限定盤。東芝EMIやキングレコードの協力を得て制作されていた。伊藤咲子の盤とカップリングになったのは、デビュー間もない頃の中原めいこ。共に東芝EMI所属の歌手だった。こちらの盤に収録の『リトル プリンス』は、この企画のための新録音となり、矢野立美氏が編曲を手がけている。
音質をマスターテープに限りなく近づけることを目途に、こだわりにこだわりぬいてプレスされたスーパー・アナログ盤。LPサイズだが45回転、通常の盤よりも厚みのある重量盤。オーディオチェックという目的から、クラシックやジャズのジャンルからの制作が多かったが、歌謡曲や流行歌の分野からはアリス、弘田三枝子、西島三重子、石黒ケイ、秋本奈緒美などの盤も作られた。

sakiko4収録曲や制作秘話、歌手へのインタビューなどが記載されたスリーブも封入。

過去に『紅白』出場というプライド
歌手として築き上げてきたキャリア

ふたたび復帰できた喜びはあったにせよ、特別な扱いを受けることなく、朝っぱらの番組に顔を出す。しかも、出演者はサッコの歌手としての格には及ばずの方たちばかり。
デビュー当時は”涙なんか知らない”と朗らかに歌っていた『ひまわり娘』。そんな彼女が、涙の意味を思い知らされたのは、まさしくこの時だったのか?

顔で笑って心で泣いて

涙もチョチョ切れる、あまりにも切ない復帰劇である。サッコのような経歴の持ち主であれば、もっと大きな歌番組で、その復帰の門出を祝ってあげることもできたものを。暦が指し示していた1982年では、そのような待遇は時すでに遅しという時代だったのか?
その後、山あり谷あり色々あって、89年には芸能界から退いてしまったサッコ。そんな彼女が、歌をもう一度唄いたいという希望と共に…ふたたび芸能界へ戻ってきた。”蝶のように坂を舞い下り、はなやかに出直すわ”…とばかりに。
時の流れは早いもので、直近の復帰からすでに13年の歳月が経過している。数えて三度目の復帰となり、まわり道はたくさんした。だけれども、今は歌うことが楽しくて仕方がないという。そんな彼女を見ていると、心から嬉しく思うし、応援したい気持ちでいっぱいにもなる。
『リトル プリンス』を唄っていた頃、インタビューではこんな風に答えていた。
“アダルトなボーカリストを目指し、どんなジャンルの歌も唄え、幅広いもののできる伊藤咲子として、これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします”

顔で笑って心で笑って

一時は夢破れたものの、情熱がふたたび彼女を表舞台へと押し戻した。
そして今…かつての『ひまわり娘』は円熟味を増し、衰えを見せない抜群の歌唱力で、その夢に近づきつつある。空を仰いでグ~ンと伸びるひまわりの花のように、真の歌い手として、更に大きな花を咲かせようとしているのである。今では、顔と心の両方で…ほほえみを浮かべることができるようになったのではないか?まさしく今の彼女は♪そんな~ひまわりの花。これからも素晴らしき歌姫として、僕らのひまわりプリンセスでいて欲しい! こんな風に願ってやまないのである。

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プロフィール

icon_sr70&80年代アイドル、歌謡曲、ピンク・レディー、昭和ポップカルチャー好き。高円寺・円盤「鈴木啓之のミュージックガーデン」、FMおだわら「ラジオ歌謡選抜」にゲスト出演。「歌謡曲リミテッド」でコラム連載中。ブログ「昭和TVワンダーランド」の運営者です。

ハンドル名:チェリー(CHERRY★CREEK)
好きな音楽:70-80年代アイドル歌謡全般、歌謡曲、米英50-60sティーンポップ、古き良き時代のジャズボーカル、フリッパーズギターなど
好きな歌手:1960-80年代の日本で唄っていた、歌謡曲の歌手全員
好きなもの:昭和にまつわるものすべて、音楽鑑賞、レコードや昭和アイドルグッズ集め、食べ歩き、パソコン、エッセイを書くこと、昼寝
よろしくないクセ:哀愁のオリエント急行に、たま~に乗ってしまうこと 笑)
得意なもの:トーク(特に70-80年代アイドルや歌謡曲について)、丁寧な言葉で話すこと、グラフィックデザイン、文章を書くこと、英会話、料理
出身地:東京、日本
国籍:日本
生息地:オーストラリアのメルボルン(永住権)、たまに神奈川県
経歴:2015年12月「鈴木啓之のミュージックガーデン」(於:高円寺 円盤)、2016年1月FMおだわら「ラジオ歌謡選抜」第132回放送分「昭和アイドル・ワンダーランド」(ゲスト)、2016年5月 歌謡曲情報サイト「歌謡曲リミテッド」 にてコラム連載開始
「80年代アイドル☆ピンク・レディー☆昭和TVワンダーランド」
http://blogs.yahoo.co.jp/cherrycreekjp

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