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ロビーのとこ まぢかで見た 貴女はスター! 『私のスター』 青江三奈

ロビーのとこ まぢかで見た 貴女はスター!
 『私のスター』 青江三奈

文・資料/チェリー 

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「髪が茶色い、このおばさんはだあれ?」

これは筆者が小学生の頃、とある歌手に関して両親へ質問した際の言葉である。今思えば、失礼極まりないことを言ってしまったなと反省しきり。しかし、当時の自身にとっては、このような印象しか持てなかったのも事実でアリマシテ。5~6歳の、幼少期真っ只中にいた少年にとって”オトナの女性”というものは=(イコール)おばさんというイメージだったのだろう。

見方を変えてみれば、それだけ貫禄がある風に見えたという意味にもなりそうだが、その威風堂々とした歌手の当時年齢は、三十路をわずかに過ぎたあたり。今思えば”おばさん”なんて呼ぶのは失礼もいいところ、十分にお若かったではないか。その年齢を遥かに超越している筆者こそ一体なんなのだ?という疑問符を、即座に打ちまくる必要がアリアリかと思われ。笑)

“髪の茶色いおばさん”などと、無礼にあたる表現をしてしまった歌手。その方が、後の筆者にとって『私のスター』になるとはね。人生は海、少年は舟…どこをどうやって漂ってきたのやら。羅針盤さえ付いてなかったチンケな小舟にゃ、航海日誌など残されているはずもなく。今となっては”後悔”の雨あられ、その詳細な航路なんて分かりっこないのである。

なにはともあれ、その歌手についての紹介を、敬意を払いながら進めさせていただくことにする。

歌手の名前は、青江三奈。彼女は1966年、25歳の時に『恍惚のブルース』でメジャーデビュー。これ以前、高校在学中より、銀座・銀巴里や横浜のナイトクラブのステージにも立っていたというから恐るべし。シャンソンはもとより、ジャズもお手のものというム・ス・メだった模様。歌手全盛期の容姿からは、おそらくその頃に覚えたであろう着飾り方やヘアセットの仕方などが、脈々と受け継がれていたことが見て取れる。それは、古き良き時代のアメリカで輝いた、美人ジャズボーカリストといった風。そして、68年には”色っぽいため息”を交えた曲『伊勢佐木町ブルース』を発売。当時はその”ため息”が卑猥であると物議を醸したらしいが、それに反動するかのように50万枚超えの大ヒットを記録。以後も『長崎ブルース』『新宿サタデーナイト』『国際線待合室』などをヒットチャートの上位へ送り込み、『池袋の夜』ではミリオンセラーを達成。やがて”ブルースの女王”と呼ばれるようになる。NHK『紅白歌合戦』にも83年まで連続出場し、ベテラン歌手としての意地見せつけたのである。

昭和という時代を生きた者にとって、青江三奈という歌手は大御所という認識のはず。おそらく筆者の年代(1968年生まれ)あたりが、彼女の華々しい活躍を記憶に色濃く留める、最後の世代と言えるのかもしれない。とにかく彼女は、毎年の『紅白』に名を連ねるベテラン歌手…まさにこのイメージだったのである。

だから当時は、彼女が出場して歌っていた曲はすべてヒットしていたのだと思いこんでいた。しかし、そうではなかったことの詳細には、後々気づかされることになるのだが。特に、時代の節目と言われた1970年以降に発売した楽曲群には、そうでなかったものが多い。たしかに、メロディーがすっと頭に浮かんでくる曲が極端に少なくなるのである。時代が進み80年代になると、ヒットから遠ざかっているのになぜ『紅白』に出場?と槍玉に挙げられることもあったか。それでも、以前にミリオンセラーを叩き出した歌手としての貫禄を以って、長らく第一線に居続けた。そして、その名を幅広い世代に向けて轟かせたのはさすがと言える。

回数を重ねた、輝かしい『紅白』の出場暦。しかし、その桧舞台で歌われることのなかった撃沈ソングも、そのキャリアに比例して多く存在する。中には、聴き手の心を揺さぶるほど素晴らしい楽曲もあるというのに、ヒットに至らず埋もれたまんま。あたかも、日の目を見せてくれ!と叫んでいるかのように。

その楽曲のひとつが『私のスター』である。本曲はシングル第32弾、発売日は1974年2月25日。今から遡ること、43年も前のことになる。

作詞:橋本 淳 作曲:都倉俊一 編曲:飯吉 馨

60年代最後の作品『池袋の夜』の売上が100万枚を超え、以降も青江節をつらぬいた。しかし、セールスはジリ貧…となったところでの快心作といった風。なにしろ、サウンドがそれまでのものとはうって変わったのである。

この時代の都倉氏と言えば、イメチェン後の山本リンダにおける一連作品や、フィンガー5などで当てまくり。青江三奈という歌手にしみついたイメージを塗りかえてくれるのは、都倉氏しかいないとでも任命されたのか?その甲斐あって本楽曲は、それまでの彼女には見られなかった、映画音楽のような美しいバラードに。そして、ゆったりとスウィングするという、ジャズ風味も加味されたお洒落なメロディーに仕上がった。イメチェンの先人として成功していたリンダにならい?セールスが下向きで『こまっちゃうナ』だった青江三奈のテコ入れ…ここにありきといったトコロか。

そもそもデビュー前の経歴を見るにつけ、”アーンアーン”のため息より、このような作風こそが彼女の本領だったとは思うけれども。

『私のスター』|テーマ

とある酒場のステージにて…袖から見守るは、そこに歌い手として立つ男。主人公の女は、その男の情人。これまで男の成功をひたすらに願い、陰で支えてきた女…である。しかし今夜、男はひとり(都会へと)旅立ってゆく。別れのプラットホーム…流行(はやり)の歌を口ずさむように捨てられたアタシ。夜汽車の窓をへだてて見たわ…貴方はスター。そしていつしか時は流れ…貴方の噂を目にしたの。「幸せつかめそうだ」とサ。つめたい言葉よね…それでも貴方は…私のスター。

『私のスター』|聴きどころ

1:往年の、映画音楽のような美しい旋律。ゆったりスウィングして、ジャズるアレンジ。
2:星堕ちる、群青の夜空を描き出すよなストリングス。ピアノの音色は瞬く星の輝きか。
3:魅惑のハスキーボイス!NYのため息がヘレン・メリルなら、TOKYOのため息は青江三奈。

カクテルドレスでピアノに寄りかかりながら、グラス片手に歌ってほしいような曲。

♪今は何も云いたくない 貴方については
こころの片隅の 白いページと 破れた恋

♪踊りつかれ 壁にもたれ ひとり飲むお酒
陽気な男たちの誘い声が 淋しすぎる

彼女が歌手デビュー前に立っていたという、横浜のステージ。そこで夜な夜な奏でられていたであろう、往年のスタンダードナンバーを彷彿させるような…心にじんわり沁みて目頭が熱くなるメロディー。そう、セピア色した映画の、一場面を切り取ったかのような、ノスタルジック風味とでも表現したらよいのだろうか。おそらく、青江三奈という歌手を、例の”アーンアーン”でのみ認識している人にとっては、目からウロコの楽曲になるはずである。

♪夜汽車の窓 へだてて見た 貴方はスター

♪夜汽車の窓 へだてて見た 私のスター

手の届かない存在になりゆく男を、遠巻きに見つめる女。寂しいけれど”貴方はスター“だと自身に言い聞かせる。踊り、酒…快楽で淋しさをまぎらわせようとしてみても、こころの片隅にある空白が埋められることはなく。忘れようとしても忘れられない男…彼こそが”私のスター”。そう…アタシが育てあげた男なのだと自覚する。主人公のゆらめく心、そして、悲哀の描き方が全編に渡って素晴らしいのである。

そして、あえて不器用な女を装って歌う、青江三奈のハスキーボイスが抜群なのは言うまでもない。流行歌(はやりうた) のようにポイ捨てされた哀れな女を、ものの見事に表現しているのである。特に、夜汽車の窓…のクダリで聴ける枯れ具合には、思わず涙腺がうるむ。素晴らしすぎるから、”アーンアーン” と叫んで筆者は天に昇りますわヨ。笑)

都倉氏が手がけた他秀作としては、麻生よう子『逃避行』『午前零時の鐘』、郷ひろみ『ハリウッド・スキャンダル』、ピンク・レディー『事件が起きたらベルが鳴る』、カプチーノ『九時からのリリィ』、浅野ゆう子『バレンチノ・インフェルノ』などもある。オーケストラ風あり、映画音楽風味あり…幼少期と青春期をドイツで過ごし、生活を通して西洋の旋律を浴びたという彼ならではといった、いかにもな雰囲気の作品がズラリと並ぶ。どれも夜の帳(とばり)が下りた曲になるが、青江三奈の『私のスター』を含め、『都倉俊一のムード・インディゴ』なるコンピレーションCDでも作ってみたら、その世界観を存分に楽しめるのではないだろうか。

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『私のスター』のB面には、同作家陣による「想い出のレンガ通り」を収録。こちらも青江三奈にしてはめずらしい、カジュアルなポップス調。シャララと合いの手を入れる女声コーラスがオールディーズっぽい雰囲気を醸し出すが、全体的には70年代の洋楽ヒット風メロディーになっている。

実は筆者…そのようなムーディーな宵を、青江嬢と過ごしたことがある。と言うと、語弊が生じる可能性があるので明確に。笑)

それは、とあるホールで行われたコンサート。筆者がまだ20代だったので、90年代の中ごろの出来事になる。この時代の彼女の公演は、一連のヒットソングに加え、ジャズナンバーを歌唱するコーナーを設けていた。あいにく、ヒットせずの『私のスター』が歌われることはなかったが、『ラヴレター』や『ス・ワンダフル』など、往年のスタンダードナンバーから数曲を披露してくれた。ちょうどこの時期、ニューヨークでのジャズコンサート開催、本場のミュージシャンが参加したジャズアルバム発売、フレディ・コールとの共演等により、ジャズ歌手としての評価が大いに高まっていたことによるものだったのだろう。このコンサートの内容はすこぶる素晴らしく、彼女の新しい一面(こちらが本来の姿のはずだが)を垣間見ることができた筆者は、一気にファンになってしまったほど。

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フレディ・コール、グローバー・ワシントンJr.等をゲストに迎えたジャズ・アルバム『The Shadow Of Love~気がつけば別れ~』(1993年発売)。『Cry Me River』『It’s Only A Paper Moon』などのスタンダードなジャズナンバーに加え、青江三奈の大ヒット曲『伊勢佐木町ブルース』『本牧ブルース』をジャズアレンジにして収録。全編英詞で構成の、本格的にジャズる1枚。 当初はCDとして発売されたが、近年になってアナログ盤として復刻された。

終演後にはロビーへ出て、観客との交流にも積極的。それを遠巻きに見ていた筆者は、彼女のあまりの気さくさに驚いてしまったほどでアリマシテ。

ロビーのむこう へだてて見た 貴女はスター”

歌詞をパロディーしてみればこんな風か。ロビーのむこうの方で、たくさんの熟年女性客たちに囲まれる彼女は、まさにこのような感じに見えたのである。すると…

「ボク!若いね!こっち来てお話しよ。」

辺りを見回しても”若い”に該当するのは筆者のみらしい状況(←周囲のお客様方、誠に申し訳ございません)。念のため、もう一度確認してみたが、やはりそうらしいことを再認識。

(心の声)「えっ…青江さんが直接にお声がけくだすった、ワナワナ。それでもって、こっさ来いと呼ばれとる。笑)しっ…しかも”ボク”って言われた???笑)」

90年代の中ごろとは言え…筆者は20代後半へと足を踏み入れた、いわば”オジサン予備軍”。なのに”ボク”と呼んでくださるなんて!まぁ、彼女の目から見た20代後半のオトコなぞ、若造そのものだったのだろうけれども。しずしずと近寄る筆者、二人の距離はどんどん縮まり…やがて手を伸ばせば届く位置までになった。すると彼女は、こんな風にポツリとつぶやいたのである。

「ボクみたいな若いお客さんってあまり来ないもん。だから嬉しくって。」

下町育ちらしい(容姿があまりにエレガントなのでそうは見えないが)、とてもチャキチャキした口調。しかも、あの”魅惑のハスキーボイス”でこのようにおっしゃったのである。笑)

この後も筆者のワナワナが止まらなかったことは、想像に容易いだろう。緊張しながらも、コンサートを楽しませていただいたお礼、そして、ジャズナンバーの歌唱が超絶的に素敵だった件などなど、長くおしゃべりさせていただいた。これぞ火事場の馬鹿力?ソレが働きまくった結果だったのか、ナゾ。

ロビーのとこ まぢかで見た 貴女はスター”

歌詞をさらに引用展開してみればこんな風になる。オーラがキラキラと輝き、宝石のようにまばゆかった彼女。これがまさにスターとしてのきらめき…と感じさせるほど。それと同時に、脳裏をよぎったのはこの言葉。

「髪が茶色い、このおばさんはだあれ?」

幼少時のこととは言え、彼女をこんな風に言ってしまった自身が、とてつもなく恥ずかしくなった。

この宵の一会がまさしく…青江三奈という歌手が筆者にとっての

『私のスター』

になった瞬間…だったことは間違いないのである。

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プロフィール

icon_sr70&80年代アイドル、歌謡曲、ピンク・レディー、昭和ポップカルチャー好き。高円寺・円盤「鈴木啓之のミュージックガーデン」、FMおだわら「ラジオ歌謡選抜」にゲスト出演。「歌謡曲リミテッド」でコラム連載中。ブログ「昭和TVワンダーランド」の運営者です。

ハンドル名:チェリー(CHERRY★CREEK)
好きな音楽:70-80年代アイドル歌謡全般、歌謡曲、米英50-60sティーンポップ、古き良き時代のジャズボーカル、フリッパーズギターなど
好きな歌手:1960-80年代の日本で唄っていた、歌謡曲の歌手全員
好きなもの:昭和にまつわるものすべて、音楽鑑賞、レコードや昭和アイドルグッズ集め、食べ歩き、パソコン、エッセイを書くこと、昼寝
よろしくないクセ:哀愁のオリエント急行に、たま~に乗ってしまうこと 笑)
得意なもの:トーク(特に70-80年代アイドルや歌謡曲について)、丁寧な言葉で話すこと、グラフィックデザイン、文章を書くこと、英会話、料理
出身地:東京、日本
国籍:日本
生息地:オーストラリアのメルボルン(永住権)、たまに神奈川県
経歴:2015年12月「鈴木啓之のミュージックガーデン」(於:高円寺 円盤)、2016年1月FMおだわら「ラジオ歌謡選抜」第132回放送分「昭和アイドル・ワンダーランド」(ゲスト)、2016年5月 歌謡曲情報サイト「歌謡曲リミテッド」 にてコラム連載開始
「80年代アイドル☆ピンク・レディー☆昭和TVワンダーランド」
http://blogs.yahoo.co.jp/cherrycreekjp

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