トップページ 特集 編集者から見た昨今の歌謡曲再評価馬飼野 元宏氏(洋泉社/「映画秘宝」編集部)

編集者から見た昨今の歌謡曲再評価馬飼野 元宏氏(洋泉社/「映画秘宝」編集部)

歌謡曲リミテッド インタビュー

編集者から見た昨今の歌謡曲再評価
馬飼野 元宏氏(洋泉社/「映画秘宝」編集部)

取材・文/竹部吉晃 取材/鈴木啓之 公開日:2014.01.24

昨年末に発売された雑誌「GINZA」(マガジンハウス)での気合の入った歌謡曲特集を象徴的な例として、ここ数年、いろいろな活字媒体で歌謡曲という言葉を目にする機会が増えた。関連書籍も続々刊行されており、特に「あまちゃん」以降は、40代以上にアピールするための共通キーワードになっているようだ。今回は、以前から歌謡曲に関係した書籍を多く手がけてきた編集者の馬飼野元宏氏に登場いただき、昨今の歌謡曲再評価についての話を聞いた。馬飼野氏は洋泉社で「映画秘宝」の編集を手がける傍ら「アイドル映画30年史」「80年代アイドルカルチャーガイド」といった書籍に関わり、歌謡曲やアイドルポップを分析する独自の視点と論評には定評がある人物。氏の目から見た現在の歌謡曲事情とは?

大事なのはメジャーなものを堂々と扱うこと


--長年にわたって歌謡曲に関する書籍に携わってきた馬飼野さんから見て、昨今の歌謡曲の盛り上がりは、どのように感じられますか。

馬飼野:10年前と比べたら、メディア側がちゃんとリスペクトを込めて回顧するようになっている気はします。テレビで往年の歌謡曲を紹介する番組でも、映像に細かいクレジットを入れるなど、詳しい情報が伝えられるようになっていますよね。

--確かに何年のどの番組の映像だというクレジットが入るようになりました。その古い映像から興味をもつ若い人も多いみたいです。

馬飼野:CS放送でも歌謡曲の番組が増えていますし、あとはYouTubeなど動画サイトの影響が大きいのだと思います。簡単に昔の映像を見られるようになりました。そして、それらのサイトを見ていると、全盛期の天地真理の映像に「掘北真希みたいだ」なんていうコメントが並んでいる。たぶん、若い人は今の感覚で昔のものを見ているんでしょうね。それに、ドラマと違って、歌謡曲は2分くらいで、全部見られるってことも大きいんでしょうね。あとは、今の音楽より昔の歌謡曲のほうが良い音楽だと思われているんじゃないですか、きっと。

--だから、カバー作品が数多くリリースされるんでしょうね。

馬飼野:今のアーティストはカバー曲のセンスが良くなっていて、「こんなところから持ってくるか?」 っていう選曲が結構あります。加藤ミリヤの「ディア・ロンリー・ガール」もそうだったし、最近ではキノコホテルもそうですよね。元を生かしたカバーだったり、サンプリングだったりと、多種多様になっています。

--少し前の、DJが歌謡曲をレアグルーヴとして聞かせる感じとは違うんですか。

馬飼野:若干違いますね。メロディや歌詞に注目するのが、今のブームだと思います。今のヒット曲とは確実に違う当時の歌謡曲の歌詞やメロディの良さが見直されていると思います。

--そこはドラマ「あまちゃん」人気で再評価されたところでもありますよね。「あまちゃん」はどの辺りに惹かれましたか。

馬飼野:歌謡曲ファンから見てもツボを押さえていたと思います。たとえば、春子の部屋に貼ってあった松田聖子のポスターは、1981年11月にリリースされた『聖子・fragrance』というベストアルバムに封入されていたものなんです。それまで男性のためのアイドルだった松田聖子は、「赤いスイートピー」を歌った82年ごろから女の子のファンが急増しはじめたわけですが、その彼女らが遡って買い求めたレコードが『聖子・fragrance』だったと考えれば、すごく納得できるんですね。宮藤官九郎の脚本はそういう細かいところが実にしっかりしていました。歌謡曲ファンはこういうところが違っていたりするとイラっとしますからね。「この時代にこれはないじゃない!」みたいに(笑)。

--それだけマニアのツボをついたものが社会現象になったのは何故なんでしょうか。

馬飼野:マニアじゃない人も淡い記憶を持っているからだと思います。松田聖子のポスターを見て「そういえば、わたしも持っていた」と、急に思い出した人もいたでしょうし

--そう考えると別に今の時代においても歌謡曲はマニアのためだけのものじゃないってことですね。

馬飼野:そのとおりです。当時大メジャーだったものを、今マニアが注目しているっていうだけですから。「あまちゃん」は長い間、マニアックだと思われがちだった歌謡曲を、もう一度メジャーに引き戻してくれたように思います。いちばん大事なのは、メジャーものを堂々と扱うってことですね。隅っこを突っつくだけだったら、誰でもできますから。

--馬飼野さんが関わられた書籍「80年代アイドル カルチャー ガイド」も、メジャーものを基本として扱っていますよね。


「80年代アイドル カルチャー ガイド」(洋泉社/2013年)

馬飼野:そもそもこの本は「あまちゃん」人気にあやかった歌謡曲の本を作ろうってことで進んでいたのが、途中から80年代アイドルに企画が変わった。個人的には、70年代のアイドル歌謡のほうが好きなんです。80年代って70年代のバリエーションっていう気がしてしまうんです。安定していて、ドラマとしては面白くないんです。

--特に85年以降は、そういう傾向にありますよね。

馬飼野:70年代のアイドル歌謡の面白さのひとつに、シングルのリリースが短期間のローテーションだった点があります。次にいつごろ誰がシングルをリリースするかを誰もが予測できて、たとえば、6月に桜田淳子が新曲を出したら、翌月は山口百恵が新曲を出すといった並びがありました

--昔は3ヶ月か4ヶ月くらいのローテーションでしたよね。

馬飼野:最初は順調にキャリアを歩んでいたアイドルも20歳を越えたくらいから、路線変更がうまくいかなくなって、行き詰ったりすることも多かった。そんな失敗のダイナミズムも70年代は面白かった。まだノウハウが確立されていなかったんでしょう。そのノウハウがある程度確立されたのが80年代で、逆にそれで楽しみがなくなってしまった。

--そんな80年代のアイドルを1冊にまとめてみようという気になったのは、なぜなのでしょうか。

馬飼野:まとめるなら、ちゃんとやりたいと思ったのが、理由のひとつです。まず、メジャーなものを押さえていかないと、その時代の世界観は描けませんから。そこをきちんとやろうと思った。次に、ディスクガイド的なものは過去に何冊も発売されているので、アイドルそのものに寄せた本を作りたいというのがありました。例えば、当時のアイドルは歌手が本業だったことを踏まえておかないと、今のアイドルと繋がらないんです。

--本書のアイドルファイルを26組に絞ったのは、どういった思いからなんですか。メジャーの範囲を判断するのも難しい作業ですね。

馬飼野:かなり悩みました。ボーダーラインをどこにするか、マイナーな人をいれるかどうか。当時と今とではメジャーの評価も違いますし。岩崎良美のポジションを見ても、当時は安定した人気と音楽レベルの高さを兼ね備えたアイドルという評価でしたが、今だと「タッチ」の人って認識になっちゃうんです。残念ながら、柏原よしえを落としたんですが、彼女についてはコアなファンを獲得したアイドルというよりも、ヒット曲を連発した歌謡曲歌手っていうイメージがあるんです。

--スペシャルインタビューの早見優、荻野目洋子、斉藤由貴はバランスが良いですね。

馬飼野:早見さんは82年組を代表してもらいました。荻野目さんは、ユーロビートでブレイクしたアイドル歌手ですから、90年代の安室奈美恵たちに繋がるという意味で大きな存在だと思います。斉藤さんは女優として評価が高い方ですが、実はアイドルファンから根強い人気を集めているんです。

--斉藤由貴は実は80年代において松田聖子に次ぐぐらいの重要なアイドルだと思います。

馬飼野:表紙の斉藤さんの写真への反応も大きかったですね。今でもファンが多いんですよ。

--歌謡曲の裏方、作り手にもインタビューされていますが、そこからの発見も多かったのではないですか。

馬飼野:当時、アイドルソングは他のジャンルの楽曲に比べて下に見られていたような気がしますが、作家やプロデューサーは本気で作品を作っていました。アルバムはコンセプチュアルな作品が多くリリースされていますし、曲についてもきちんと練られたアレンジのものが多いんです。でも、世間的な一般の評価と業界内の評価って違いますよね。そこを強調したかったし、その意味においても、改めて筒美京平さんの存在の大きさを実感しました。実はそのことが、この本の裏テーマになっているんです。

--アイドルソングも歌謡曲も、その時代時代に即応するあまり、カルチャーとして捉えにくかった面がありますが、これについてどう考えられていますか。

馬飼野:そのことは、映画の本を作っていても同じなんですよ。例えば黒澤明や小津安二郎の映画は文化遺産として残っていますし、フォローする側もそのつもりで特別扱していたと思うんです。でも、そうじゃない映画は、後々まで残ると思って作っていないから、とんでもない傑作も多いけれどいい加減なものも多い。そういったプログラム・ピクチャーと言われたものと、歌謡曲は同じなんです。マニアなカルト作品を評価する場合、名作を見ないまま表面上のことばかり語る人が増えると、これまでの代表作が変わってきたりする例があります。そうなってしまうことはとても危険なので、この本ではメジャーなところを押さえたうえで、全体像を描き出す構成にしました。

--ところで、いまは空前のアイドルブームですが、今後、どんなアイドルが人気を集めると思いますか。

馬飼野:3、4人くらいのグループで、メンバーそれぞれが強烈な個性を発揮しているアイドルが出てきてほしいですね。たとえば、かつての工藤静香や後藤真希のように、グループに所属しながらもすでにピンとしての風格があって、芸能界でのし上がってやるという強い意志を持った子を見てみたいです。結局のところ、アイドルはヤンキー・モードの高い人が長続きするんですよね。80年代に成功した人って、みんなそういう気質を持っていたと思います。心に残るアイドルは別としても。

--なかなかそういう気質をもった人は出にくい時代ですよね。

馬飼野:グループ全員がユニゾンで歌っていると、どれが誰の声か分からない。今のアイドルグループは、要するにグループブームなわけで、これを続けていくと間違いなくインフレが起きるのではないでしょうか。

--最後に、歌謡曲という言葉は、これからどう変わっていくと思いますか。

馬飼野:ロックでもラテンでもシャンソンでも、日本に持ってくると、後ろに「歌謡」という言葉がついて、歌謡曲になってしまうんです。だから、日本の商業音楽を全てひっくるめて歌謡曲と呼ぶこともできます。あと、歌謡曲を構成する条件として「他作自演」もあります。頼まれた人が歌手のイメージを想定して、歌手自体はもらった曲を歌う。そういうクリエイティブのシステムなんじゃないですか。自分で書いて自分で歌っている人って、大きくイメージから逸脱することってありえないんです。でも、人からとんでもない曲を与えられて、とんでもない化学反応を起こす可能性ってよくあると思うんです。それが大ヒットしたことも歴史上、いくつもあるわけです。とんでもない曲をぶつけられる作家と、それをうまく消化できる歌手を見てみたいですね。

--それを組み合わせるディレクターも重要ですね

馬飼野:80年代の前半まではディレクターの裁量がいちばんだったみたいで、それゆえに多くの名曲が生まれていました。それ以降、いろんな人の意見が入ってきたため、中庸なものが増えていきました。それも音楽が衰退した理由のひとつだと思います。ひとり、強烈なディレクターがいて、ジャッジメント装置として成立していれば、神曲は山ほど生まれるような気がします。いまの歌謡曲システムは、1アーティストに1コンポーザーで、ディレクターの仕事を作家がやっているんです。だからこそ、強烈なセンスをもったディレクターが求められていると思います。そうすれば、状況は必ず変わっていくと思います

【馬飼野元宏氏が携わった主な書籍】

Hotwax presents 歌謡曲名曲名盤ガイド1970's 1970-1979

「Hotwax presents 歌謡曲名曲名盤ガイド1970's 1970-1979」

(シンコー・ミュージック/2005年)

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Hotwax presents 歌謡曲名曲名盤ガイド 続・歌謡曲番外地 Queen of Japanese Pops vol.2

「Hotwax presents 歌謡曲名曲名盤ガイド 続・歌謡曲番外地 Queen of Japanese Pops vol.2」

(シンコー・ミュージック/2008年)

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日本の男性シンガー・ソングライター

「日本の男性シンガー・ソングライター」

(シンコー・ミュージック/2013年)

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「80年代アイドル カルチャー ガイド」

「80年代アイドル カルチャー ガイド」

(洋泉社/2013年)

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映画秘宝EX 金田一耕助映像読本

「映画秘宝EX 金田一耕助映像読本」

(洋泉社/2013年)

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馬飼野元宏

洋泉社の月刊映画雑誌「映画秘宝」所属。主な編著に『アイドル映画30年史』『80年代アイドルカルチャーガイド』『金田一耕助映像読本』(いずれも洋泉社刊)『HOTWAX歌謡曲名曲名盤ガイド』シリーズ、『日本の男性シンガー・ソングライター』(いずれもシンコー・ミュージック刊)など。フリーペーパー「月刊てりとりぃ」に「映画は役者で観ろ!」を、WEBマガジン「週刊てりとりぃ」に「ライヴ盤・イン・ジャパン」を連載中。

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